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東京地方裁判所 昭和46年(行ウ)222号 判決

原告 岡部文武 ほか二二名

被告 国

訴訟代理人 小沢義彦 桜井卓哉 ほか一三名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は、別表一(原告氏名)欄記載の各原告に対し、同表七(差額)欄記載の各金員及びこれに対する昭和四四年一二月六日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  (原告)請求原因

(一)  第一次請求原因

1 原告らは、昭和四四年一二月一日現在、六か月をこえて、それぞれ別表二欄記載の官職にあり、同表三欄記載の配属先に在職する建設省所属の職員である。

2 原告らは、一般職の職員の給与に関する法律(昭和二五年四月三日法律九五号)(以下「給与法」という。)一九条の四、人事院規則九-四〇(期末手当及び勤勉手当)(以下「規則」という。)一四条の規定により、勤勉手当の支給日である昭和四四年一二月五日限り別表五欄記載の金額の勤勉手当を受ける権利を有する。その理由は以下のとおりである。

(1) 勤勉手当は、給与法一九条の四第一項により「基準日以前六箇月以内の期間におけるその者の勤務成績に応じて」支給するものとされ、その具体的な額は同条二項、規則九条により、「俸給の月額及びこれに対する調整手当の月額の合計額」に「勤務期間による割合」(期間率)および「勤務成績による割合」(成績率)を乗じて得た額とされている。期間率は規則一〇条、同別表第一により各省庁とも一律に定められているところであり、成績率は規則一三条の基準の範囲(一二月一日を基準日とする勤勉手当については一〇〇分の四〇以上一〇〇分の九〇以下)内で、各庁の長が定めるものとされている。

建設省では、大臣官房人事課長通達「勤勉手当の成績率について」(昭和四三年二月二〇日建設省人発第一五四号)(以下「人事課長通達」という。)、同「勤勉手当の成績率についての一部改正について」(昭和四四年四月二一日建設省人発第一一三四号)(以下「改正通達」という。)があり、これらによると、所属部局の長(以下「所属長」という。)が職員の勤務成績を「A勤務成績が優秀であるもの」、「B勤務成績が良好であるもの」、「C勤務成績がよくないもの」の三段階に判定区分し、このうち判定Bの職員の一二月支給の勤勉手当の成績率は一〇〇分の六〇と定められている。

(2) ところで公務員の俸給は勤務に対する反対給付としての性質を有するから、公務員は国に対し権利として俸給を請求し得る立場にある。また、俸給は公務員とその家族の生存を保障するものでなければならないから、生活の権利に直結している。この理は俸給以外の勤勉手当その他の給与にも妥当する。公務員給与のこのような性格にかんがみれば、その額及び算出方法は当局により恣意的に決定されるべきでなく、客観的に明確にされることが必要であり、そのことによつて給与が公務員の具体的な請求権として確定されるのである。これを勤勉手当の成績率についてみると、それは前記のように規則一三条の基準の範囲内で各庁の長が定めるとされているが、その「定める」とは、各庁の長に支給の都度所属職員の成績率を自由裁量によつて個別的に決定する権限を委任した趣旨ではなく、同条の基準の範囲内でさらに具体化した成績率の基準を作成することを委任した趣旨と解するのが相当であり、そのことによつて、公務員の給与請求権の内容の具体的確定が期せられるのである。そして、前記人事課長通達、改正通達、後記本件の昭和四四年一二月期の基準はかかる趣旨のもとに作成されたもので、いずれも給与法、規則の内容を補つて職員の側の勤勉手当請求権の内容を具体化し、成績率決定の公正を期した趣旨と解すべきもので、単に当局の便宜に資するための内部規定と解すべきではない。そして、人事課長通達及び改正通達にいう「勤務成績が良好」とは「勤務成績が通常」の意であり、勤務成績につき「優秀」又は「不良」とする特段の事由が存しない職員は、当然「勤務成績が良好なもの」に該当するものとして一二月期の勤勉手当については一〇〇分の六〇の成績率による請求権を有するのであり、そこに所属長の裁量の入り込む余地はない。因に、成績率Cについては一〇〇分の五九以下と定められるにとどまり当局の裁量の余地を残しているが、それは各支払期ごとに具体的な基準の設定を予定しているものと解すべきであり、現に昭和四四年一二月期については「(イ)訓告を受けた者一〇〇分の五七、(ロ)文書による厳重注意を受けた者一〇〇分の五八、(ハ)口頭による厳重注意を受けた者一〇〇分の五九」とする基準に従つて成績率Cの決定が行なわれた。従つて、これら訓告、厳重注意の正当性が存しない限りその対象とされた職員は「勤務成績が良好なもの」として成績率Bによる勤勉手当請求権を有するのである。

(3) 原告らは前記(2)に述べたような意味で、「勤務成績が良好なもの」に該当するものというべきであるから、昭和四四年一月の勤勉手当については一〇〇分の六〇の成績率による勤勉手当を請求する権利を有するところ、これによれば各人の具体的な勤勉手当の金額は別表五欄記載のとおりである。(ただし、原告の柏村武と橋本圭三郎は短期間組合活動に専従したことにより、いずれも一〇〇分の九〇の期間率の適用をうけるものであり、その余の原告らは一〇〇分の一〇〇の期間率の適用をうけるものである。)

(4) しかるに、別表の1ないし13の原告らの所属長である国土地理院長は右原告らの勤務成績をCと判定し、成績率を、別紙一記載の各行為につき訓告を受けた別表の1ないし3の原告らにつき一〇〇分の五七、書面による厳重注意を受けた同4ないし12の原告らにつき一〇〇分の五八、口頭による厳重注意を受けた同13の原告につき一〇〇分の五九と決定し、別表の14ないし23の原告らの所属の長である東北地方建設局管内の各工事事務所長は別紙一記載の各行為につき口頭による厳重注意を受けた右原告らの勤務成績をCと判定し、成績率を一〇〇分の五九と決定した。この結果、現実に原告らに昭和四四年一二月五日の支給日に支給された勤勉手当の金額は別表六欄記載のとおりの金額であつた。

(5) よつて、原告らは、被告に対し本来支給されるべき勤勉手当と実際に支給された金額との差額である別表七欄記載のとおりの金額の支払いを求める。

(二)  第二次請求原因

仮に、原告らの勤勉手当請求権は、各職員について所属長の勤務成績の判定による成績率の決定がなければ具体的に発生するものでないとしても、原告らは勤務成績良好であるにもかかわらず、公務員である所属長が原告らに対する勤務成績をCと判定し成績率を一〇〇分の五七ないし五九と決定した違法行為により、得べかりし勤務成績B判定に基づく成績率一〇〇分の六〇による勤勉手当の受給を妨げられ、別表七欄記載額相当の損害をこうむつたことになるから、国家賠償法一条にもとづいて右金員の支払いを求める。

二  (被告)請求原因に対する認否及び主張

(一)  認否

第一次請求原因のうち、1、2の(1)(4)は認め、その余は否認する。第二次請求原因は否認する。

(二)  第一次請求原因に対する主張

勤勉手当請求権は、給与法一九条の四、規則九条、一三条から明らかなように、各庁の長による職員の成績率の決定およびそれに引続く勤勉手当の支給額を決定する行為があつてはじめて発生するものと解される。勤勉手当に関する各庁の長による職員の成績率の決定は次のようにしてなされる。

成績率の割合、決定権者、決定基準につき規則一三条は「成績率は次の各号に掲げる基準日の区分に応ずる割合の範囲内で各庁の長(その委任を受けた者を含む。)が定めるものとする。一 六月一日百分の三十以上百分の七十五以下、二 十二月一日百分の四十以上百分の九十以下」と定め、「期末手当及び勤勉手当の支給について」と題する通牒(昭和三八年一二月二〇日付給実甲第二二〇号)の第九項は「各庁の長(その委任を受けた者を含む。)は、規則第一三条に規定する職員の成績率を定めるに当つては当該職員の勤務評定記録書または勤務成績を判定するに足ると認められる事実を考慮して行なうものとする。」と定めているが、建設省においては成績率の決定は人事課長通達、改正通達により行われており、これによれば、所属長による成績率の決定は勤務評定記録書によらず、勤務成績を判定するに足ると認められる事実に基づいて行うこととしている。すなわち、人事課長通達による勤務成績評定要領により所属長が基準日に在職する個々の職員の過去六ケ月間の勤務成績についてまず〈1〉仕事のできばえ、〈2〉勤勉さ、〈3〉規律といつた評定要素による評定を行い、つぎにこれを総合的に判断して成績の優秀なものをA、成績の良好なものをB、成績の良くないものをCとする三段階に区分判定する。昭和四四年一二月一日における判定Aの職員の成績率は、「各期における勤勉手当の予算総額」から「A以外の職員の支給額の合計額」を控除した額を、「Aの職員の本俸と調整手当(本俸にかかる額または暫定手当との合算額」の総和で除して算出した率とし、判定Bの職員の成績率は一〇〇分の六〇、判定Cの職員の成績率は一〇〇分の五九以下と定められている。判定区分の割合は、Aは成績が優秀である者で全体の約二割から三割の範囲内で相対的に定めることとし、BはAに判定された者以外の成績良好者を割合を考えることなく定めるが、勤務成績の良くない者があればCに判定することとしている。このように勤勉手当の成績率を算出する勤務成績とは、過去一定期間における組織への貢献度というものであり、いわゆる勤務の実績であるが、判定者の主観にもとづく偏見を抑制するため、日常直接職員と接触し、職務逐行について指示、指導し、または報告をうけて職員をよく知つている課(室)長等の意見を徴して行うこととしている。評定要素相互間のウエイトづけについては何らの基準もおいていないので、総合評価の際に事情に応じ判断している。

以上のとおり、所属長が基準日前六ケ月間における職員の勤務成績について仕事のできばえ、勤勉さ及び規律の三評定要素毎に分析的に評価したうえで総合的に評価することによつて勤勉手当算出の基礎となる成績率を決定しこれによりその支給額が決定されるのである。

しかるに本件においては原告らは勤務成績Bの判定を受けていないのであるから、判定Bを前提とする成績率による具体的な勤勉手当請求権を取得するものではない。従つて、判定Bを前提とする勤勉手当の額と現実に支給された額との差額の支払いを求める第一次請求は失当である。

(三)  第二次請求原因に対する主張

原告らに対する成績率の決定は以下に述べるとおりなんら違法はない。

1 原告らの成績率決定の要素となつた原告らの行為

原告らは全員別紙一記載のとおり、昭和四四年一一月一三日に早朝一〇分の時間内食い込み職場大会を企図した違法な統一行動の戦術の一環としてリボン等の着用を行つたこと(以下本件リボン闘争という。)が重視され、また、一部の原告らは別紙二記載のとおり他の違法行為を行なつたことも考慮され、これが前記評定要素のひとつである規律の評価(その評価の着眼点は評定要領によれば、守るべき規則、上司の命令などに従つたか、みだりに職場をはなれたり私語をすることはないかという点にある)に影響したため、別表の1ないし13の原告らの所属長である国土地理院長及びその余の原告らの所属長である各工事事務所長は前記人事課長通達、改正通達の定める基準に従つて原告らを「勤務成績がよくないもの」(C段階)と評定しその成績率を別表の1ないし3の原告らについては一〇〇分の五七、同4ないし12の原告らについては一〇〇分の五八、その余の原告らについては一〇〇分の五九と決定し、原告らに対し別表六欄記載の額の勤勉手当の支給決定をなしたものである。

2 前記一一・一三統一行動の状況

(1) 公務員共闘・国公共闘の動き

昭和四四年一〇月二三日、公務員共闘会議は、人事院勧告の完全実施、安保条約廃棄及び沖縄即時無条件返還等を要求してかねて予定されていた一一月一三日の統一行動日にストライキを実施することを確認しストライキ宣言を行つた。また国公共闘会議の評議委員会は、一〇月一六日「一一・一三実力闘争」について、国公共闘会議としては「二九分以内勤務時間内食込み職場大会を行なう」ことを決定した。

(2) 全建労の動き

一方、国公共闘会議傘下の全建設省労働組合(以下「全建労」という。)は統一要求とともに、昇格、配置換、退職勧奨、庁舎使用等に関する独自要求をかかげ、「この要求に対して関係筋が誠意をもつて解決しないかぎり、一一月一三日の実力行使に参加する」との方針を固め、闘争戦術として、当初国公共闘会議の方針にならい「早朝二九分以内の勤務時間食込み職場大会」の態勢をとり、その後右闘争戦術に対する各支部の意向をアンケートなどにより把握につとめていたが、結局投票率九二、七パーセントで、うち六七、四パーセントの支持率を得たにとどまつたので一〇月二三日、二四日の中執会議で「実力行使賛成率が過半数に達しなかつた支部も含めて、全組合員が足並をそろえられる戦術、未加入者や第二組合員(建設省職員組合)もたたかいに組織できる戦術」をとるため、当初の闘争戦術を改め、「早朝一〇分の時間内食込み職場大会」の態勢をとり、また一一月一二日の昼休み職場大会以降一一月一三日の行動日にかけてリボンを着用することを決定した。

(3) 当局の対応

これに対し、政府は、公務員による争議行為の違法を強調し、「違法事態に対しては法の規定に照らし、厳正な態度をもつて臨み、統一行動戦術としての勤務時間中におけるリボン着用は違法である」との見解をとり、総理府総務長官談話、内閣官房長官談話を発表するとともに、一一・一三統一行動対策を明らかにした。建設省当局としても、職員がこれら違法行為に参加することのないよう、一一月七日事務次官名で「職員に対する訓示」を出すとともに、全建労本部及び各支部に対して警告を発した。また各職場では掲示板、回覧等を利用して、総理府総務長官談話、内閣官房長官談話、各所属長の訓示及び警告文の周知徹底に努めた。このような背景のもとに、全建労は闘争に突入し、一一月一二日には予定通り昼休み職場大会終了後リボン等着用が行われたが、当局はその取りはずしを命ずるとともに、本省と全建労本部との間で団体交渉を行つた。

(4) 団体交渉の内容と経過

当局は、全建労が、前記のように国公共闘会議傘下の組合として統一要求のほか、昇格、配置換、退職勤奨、庁舎使用等に関し、全建労独自の要求をかかげて実力行使を企図していたので、全建労と交渉を重ねた。そして、一一月一二日午後五時過ぎ全建労委員長及び書記長と官房長が会見を行い、その結果全建労は、「不満な点はあるが、独自要求に関する当局の態度には一定の前進があつた」として、「一一月一三日の統一行動に当つては時間内食込み職場大会、リボン着用を行わない」旨表明し、直ちに下樋部に指示した。こうして、一一月一三日当日は「早朝時間外職場大会」で終り、統一指示にもとづくリボン闘争も取りやめとなつた。

3 統一行動戦術の一環として原告らが行つた本件リボン闘争の違法性

(1) リボン等の着用の違法性

本件リボン等の着用は、ストライキ宣言以来政府当局、建設省当局がたびたびストライキの禁止及び統一行動戦術の一環としてのリボン等着用の禁止を警告していたにもかかわらず、翌一三日に早朝一〇分の時間内食込み職場大会という違法行為を企図した統一行動の戦術の一環として行われたものであつて、第一に国家公務員法九六条一項、一〇一条一項に定める職務専念義務に違反し、第二に同法九九条の信用失墜行為に該当し、第三に同法九八条二項に規定する争議行為の禁止規定の趣旨からみてとうてい是認できない等の点において違法なものである。即ち、まず、職務専念義務に違反するか否かは、公務員がある行為をなすことによつて、あるいはなさないことによつて、その精神的ないし肉体的活動力を職務に完全に提供しなかつたことになるかどうかということによつて決せられるべきである。本件におけるリボン等の着用は、組合の統一指令に基づき組織的に多数の者が統一要求等を掲げて一斉に着用したものであり、これは組合の団結を誇示し、要求の貫徹を図ろうとする一種のデモンストレーシヨン的組合活動であることは原告らも認めるところであるが、そうだとすれば、本件のリボン等着用は職場においてしかも勤務時間中に行裁判われるというところに真の意味があつたのであり、このことは原告らがリボン等を着用するに至る経緯に照しても明らかである。したがつて、リボン等を着用している間は、原告らの精神的活動力は右のデモンストレーシヨンに集中され、職務に対してはそれが完全に提供されていなかつたといわざるを得ないのである。精神的ないし肉体的活動力が職務に完全に提供されたかどうかということとその不十分な提供によつて現実に職務にいかなる影響を生じたかどうかということとは別個の問題であるから、原告らが本件リボン等着用の際にその精神的活動を職務に完全に提供しなかつた以上、それが職務専念義務違反になることは明らかである。次に、信用失墜行為に該当するという点については、本件リボン着用は、翌一三日の統一行動日には争議行為が予定されているという情勢下で統一要求等を記載したリボン等が一斉に着用されていることを考えれば、このような状況を見た国民の中にふだんと違つた異様な雰囲気を感じて、全体の奉仕者であるべき公務員の性格に疑問をもつ者の出ることが予測され、原告らの行為はかかる意味で公務員に対する信頼感を失わせるものであるから、国家公務員法九九条の信用失墜行為に該当する。また、国家公務員法九八条二項の関係では、本件リボン等の着用は、厳密な意味では国家国務員法九八条二項に規定する争議行為のあおり、そそのかしに該当するものではないが、本件において翌一三日に勤務時間内職場大会という違法行為が企図されており、リボン等の着用がその前日に行われていることをあわせ考えれば、その着用行為は職員の気勢をあげ、違法行為に対する職員の意思決定をあおろうとするものであり、右条項の趣旨から国家公務員として是認できない行為である。

なお、本件リボン等の着用行為によつて職場において特殊な雰囲気が生じひいては対国民、職員相互間等の関係において摩擦等によつて業務の正常な運営がそこなわれるおそれが生じた。もつとも着用に対する制止、指導、これらに対する反発等は平静時には全くないものであるからその意味では業務の正常な運営の阻害が発生した。

(2) 本件リボン等取りはずしを命ずる職務命令違反

以上のように本件リボン等着用は違法であるので、リボン等の着用者である原告らに対し、上司は国家公務員法に違反するとして、あるいは公務員として是認できないものとしてその取りはずしを命じたところ、原告らの大多数はこれに従わなかつたので、この点は国家公務員法九八条一項に違反する。仮に右の職務命令に違法な点があつても、右職務命令が誰の目からみても職務命令としての意味をもたないことが明白でない限りは、職務命令の性質上原告らはこれに従う義務を負うから、この命令に従わないことは職務命令違反となる。

4 以上のとおり、原告らには勤務成績が良くないものと認める事由があるから、本件成績率の決定には何らの違法もない。成績率の決定については各庁の長の裁量が認められ、その際成績率の決定のうえで不利益に考慮できる事実は、必ずしも服務規律に反する違法な事実に限られるわけではない。前記のとおり原告らには国家公務員法九六条一項、九九条、一〇一条一項に違反する行為があつたのであるが、仮りに厳格な意味で右条項違反に該当しないとしても、右各条項の趣旨及び憲法一五条二項、国公法九八条二項の趣旨からみて、原告らの前記行為は国家公務員の行為として是認しえないものであるから、原告らの大多数が上司からリボンの取外しを命じられたのにこれに従わなかつたことが国公法九八条一項に違反することに変わりはなく、従つて原告らの本件リボン等着用行為を重視して原告らの勤務成績をCとしたことによる本件成績率の決定には、裁量権の逸脱ないし濫用はない。

5 消滅時効の完成

原告らの第二次請求である国家賠償法一条による損害賠償請求が仮に理由があるとしても、原告らは本件勤勉手当の支給日である昭和四四年一二月五日頃にその損害および加害者を知つたというべきであるから、それから三年後の昭和四七年一二月五日の経過とともに損害賠償請求権は時効により消滅した。

三  (原告)被告の「第二次請求原因に対する主張」の認否及び反論

(一)  被告の主張の1について

1 別紙一及び二の原告らの行為に対する認否は2に求べるとおりであるが、右の点を除く事実のうち、原告らの所属庁の長である国土地理院長及び東北地方建設局管内の各工事事務所が原告らに対し勤務成績をCと判定し、被告主張のような成績率の決定及び勤勉手当の支給決定をしたことは認め、その余の事実は否認する。

被告は、原告らの勤勉手当の成績率の決定にあたつて、リボン

等の着用以外にも評価の対象となつた事実が存在すると主張するが、これらの事実はその存否にかかわらず、本件成績率の決定にあたつて考慮の対象となつていない。このことは、別紙二の行為があつたとされる原告河西、前島、橋本、市川の成績率が、そうでない原告柏村、吉川、羽田野、三僑、藤井とまつたく同率の一〇〇分の五八であること、同様に原告今立、堀井の成績率が原告渡辺、石垣、門間、平川、小笠原、嵯峨、郷古、三浦、松田とまつたく同率の一〇〇分の五九であることによつてわかる。成績率の決定「基準」はひとえに本件リボン等着用の態様ないしリボン等闘争へのかかわり方によつており、リボン闘争を指導したと当局が主張する者に対しては訓告すると共に成績率を一〇〇分の五七と決定し、それ以外のリボン等着用者のうち、上司の職務命令に応じなかつたものと当局の主張する者に対しては文書で注意すると共に成績率を一〇〇の五八と決定し、同じくリボン等着用者のうち、上司の職務命令をまつて取りはずしたものと当局が主張する者に対しては口頭による注意に止めると共に成績率を一〇〇分の五九と決定しているのである。これ以外に他のいかなる事情も本件成績率判定にあたつて考慮された形跡はない。

2 別紙一の事実について

(1) 原告ら全員に共通する事項について

被告は原告らのリボン等着用が「統一行動戦術の一環として」なされたものであると主張するが、そのいわんとするところが一一月一三日に予定されていた時間内職場大会の準備手段として本件リボン等着用がなされたとの趣旨であるならば事実に反する。本件リボン等の着用は原告ら国家公務員の経済的地位の向上を主たる内容とする切実な諸要求を実現するという目的に直結したそれ自体独立の組合活動の範ちゆうであつて、同じ目的のために遂行される職場大会やストライキなどの諸手段と並列されるべきもので、後者と目的、手段の関係にあるのではない。

(2) 別紙一の1ないし13の事実(国土地理院関係)について

原告岡部(1)、佐藤(2)、板東(3)の三名がその余の組合員に対し「リボンを着用することを指導」したことは否認する。リボンの着用は、全組合員投票による授権にもとづき全建労中央執行委員会が、昭和四四年一〇月二三日各組合員に対し、指令したところにより行われたものであつて、右原告らの指導によるものではない。原告渡辺(13)がリボンを取りはずしたのは、職務命令に従つたためではなく、着替えのためである。その余の別紙一の1ないし13の事実は認める。

(3) 別紙一の14ないし23の事実(東北地方建設局関係)について

原告らがリボン等を取りはずしたのがいずれも上司の職務命令によるものであることは否認し、その余の事実は認める。全建労東北地本の組合員らは一一月一二日昼休み職場集会終了後一時三〇分までリボン等を着用することをあらかじめ申し合わせていたため、右時刻の経過により各自自発的にリボン等をはずしたものである。

3 別紙二の事実について

別紙二の1の事実のうち、昭和四四年四月二二日退庁時全建労東京地本地理支部組合員二〇数名が無届署名活動を行つたこと、右行為に関し、文書、口頭注意があつたこと、岡部が勤務時間中離席したことは認め、その余は否認する。

同2の(1)の事実のうち、被告主張の日時、場所において、その主張のようなステツカーが貼付されたことは認めるがその余は争う。ステツカーは、許可条件のいずれにも違反しないし、仮に形式的に許可条件のいずれかの文言に反するとすれば、そのような許可条件自体が表現の自由を規制する合理的根拠の一つとしての明確性の要請に違反して無効である。同2の(2)の事実のうち被告主張の日の午前中、主張の場所においてその主張のようなストライキ宣言が貼付されたこと、当局がこれを撤去したこと、同日午後再度同文の宣言のほかビラ、ステツカーを組合員が貼付したこと、当局がまたこれを撤去したことは認め、その余は争う。右ストライキ宣言、ステツカー、ビラは許可条件に違反しないし、仮に形式的に許可条件のいずれかに反するとすれば、そのような許可条件は無効であることは前述のとおりである。

同3の事実のうち、主張の日時に河西外数名が主張の場所で会合していた事実はあるが、その余は事実に反する。すなわち、測図部地形課分室は原告河西の属する測図部管理課と同一の部屋にありロツカーで仕切られている一画であつたが、当時地形課分室所属職員は、ほとんど全員長期出張中で事実上空室であつたため、昼休みなどに管理課職員が、囲碁、将棋などをしながら休憩するのに用いられていた。当日も原告、河西ら数名が会合していたほかに数名が囲碁をやつており、原告河西らは同分室を排他的、独占的に使用していたものではない。会合の内容も組合の集会でなく管理課職員有志が課内のレクリエーシヨン及び休暇申請手続を従前通りにするよう課長に要請する件について相談していたにすぎず、「責任者」などがいるわけではない。この種の会合は「庁内取締りに関する訓令」の適用対象外の行為である。

同4の事実のうち、被告主張の日時、場所においてその主張のような国公共闘の壁新聞が貼付されたこと、これを当局が撤去したことは認め、その余は争う。右壁新聞の内容は許可条件に違反しないし、仮に形式的に許可条件のいずれかに反するとすれば、そのような許可条件は無効であることは前述のとおりである。

同5の事実のうち、被告主張の日時、場所においてその主張のようなステツカーが貼付されており、これを当局が撤去した事実は認め、その余は争う。右ステツカーは許可条件に違反しないし、仮に形式的に許可条件のいずれかに反するとすれば、そのような許可条件は無効であることは前述のとおりである。

(二)  被告主張2について

全建労が、公務員共闘会議の掲げた人事院勧告完全実施要求のほか、被告主張のような独自要求をも併せて実現をはかる目的で一一月一三日の統一行動日の闘争方針としての時間内食込み職場大会を計画し、右独自要求につき建設省当局と交渉を重ねたが、右闘争方針は全組合員の六割強の支持を得たにとどまつたことに照らし、右闘争方針を変更し、時間外職場大会に切替えることに変更したことは認める。右方針変更は一一月一二日午後七時頃傘下地方本部、支部に伝達された。

(三)  被告の主張3について(本件リボン闘争の正当性)

1 前記のように、全建労は本件統一行動に際し、公務員共闘がかかげた人事院勧告完全実施等の統一要求のほか、昇格、配置換え、退職勧奨、庁舎使用等に関する独自要求をかかげ、更に地理支部は、当時当局が国土地理院等の付属機関を筑波研究学園都市へ移転を計画していたため職員の労働条件、生活条件に及ぼす影響を知る必要から当局が公表を拒んでいた右移転計画の公開要求をも取り上げた。本件リボン闘争において表現されている内容はすべてこれら要求事項に関連するものである。原告ら公務員は国家公務員法により争議権を剥奪されており、右立法が違憲であるにもかかわらず、これを合憲であると称して当局側が争議参加者に対し苛酷にして大量な懲戒処分をもつて臨むため、事実上争議権を行使することが著しく困難な状態にあり、また、代償措置といわれている人事院勧告制度も本件リボン闘争直前の昭和四三年当時まで昭和二三年の第一回勧告を除き完全実施をされたことなく、本来の代償機能を発揮していなかつた。かかる状況下にあつて公務員労働者の団結体が諸々の切実な要求を実現し、自らの経済的地位を向上させるために残された手段は、事実上集団的示威により職場の内外で社会的共感を獲得する以外にはない。勤務時間外の集会、デモ、文書等による宣伝とならんで、勤務時間中に実施され、しかも業務秩序を阻害せずに職場の同僚に対する示威的効果をもつ行為としてリボン等を着用する行為が重要な組合活動としての意味をもつのである。

2 被告は本件リボン闘争が職務専念義務に違反する旨主張する。しかし、近代国家における公務員の職務専念義務とは、封建領主に対する家臣の絶対無制限の服従義務や絶対主義君主に対する官僚の忠誠義務とは異質なものであつて、使用者としての国民から要請されている一定の精神的ないし肉体的活動力を完全に提供すべき義務を意味するにすぎない。したがつて、特定の行為がこの義務に違反するか否かは、それが組合活動であるか、個人的行為であるかによつて左右されず、公務員が当該行為をなすことによつて、その精神的ないし肉体的活動力を完全に提供しなかつたことになるかどうかということによつて決せられるべきものである。本件リボン等の着用は休憩時間中に各自の着衣に付けることによつて一切の有形的行為を終了し、その後格別の行為を必要としなかつたものであつて、各自の要請される職務に精神的、肉体的活動力を完全に用いることができたし、現に原告らはそのように各自の職務を遂行したのであつて、職務専念義務はリボン等の着用とは完全に両立したのである。また原告のリボン等着用によつて、執務が阻害されてその能率が低下したり、職場秩序が混乱したことはない。

3 次に被告は信用失墜行為の禁止規定違反、職務命令違反を主張し、さらに本件リボン闘争が争議行為を禁止した国家公務員法九八条二項の趣旨から許されない旨主張する。

しかし、本件リボン等の形状、内容からみて、通常の健全な社会的感覚を有するものがこれに対し不快感を抱くとか、まして官職の信用性に対して疑いを抱くということは想像を絶する。また、本件リボン闘争が一一月一三日の勤務時間内職場大会への準備行為でないことは既に述べたとおりであるし、同日予定された職場大会に早朝一〇分間の時間内食込みに過ぎないから国民生活にほとんど支障のない争議行為であつて、仮に本件リボン闘争がその準備行為であるとしてもなんら違法性を帯びるものではない。

更に被告が主張するようにリボン闘争により職場に特殊な雰囲気や職員間に摩擦が生じたことはない。ただ、上司が原告らリボン等着用者に対し取りはずしの職務命令を発し原告らがこれを拒否した事実はあるが、それは当局側の千渉行為であつて、これをもつてリボン等の着用が直接もたらした摩擦というに当らない。もとより、本件リボン等着用は正当な組合活動であるから、これを制限する職務命令は適法ではない。

(四)  以上のように、原告らの本件リボン等の着用は、公務員労働者としての切実な生活実態に根ざした正当な諸要求を実現するという目的に向けられた正当な、かつ穏健きわまる組合活動であり、しかも公務員の職務遂行上の客観的な要請と予盾することなく行われた行動であつて、これをもつて勤務成績を良くないとする資料とすることはできず、原告らには他に勤務成績不良と判定される行為はない。しかるに、当局が原告ら本件リボン闘争参加者に対し勤勉手当の成績率を一〇〇分の五九以下に決定したことは、全建労の正当な組合活動に対する抑圧と干渉、組合員に対する不利益取扱をくり返してきた建設省当局の全建労敵視政策のあらわれというほかない。

(五)  被告の主張5について

1 本訴は準備手続を経ているにもかかわらず、被告の消滅時効の主張は、本訴の口頭弁論が終結する直前である昭和五二年二月一六日の第一五回口頭弁論期日においてはじめて提出されたものである。従つて被告は民訴法二五五条により右主張をすることは許されない。

2 原告らが被告の違法な査定権行使によつて国家賠償法に基づく損害賠償請求権を有するとした場合その損害及び加害者を知つたのは昭和四四年一二月五日であることは争わない。

3 国家賠償請求権の消滅時効は昭和四六年一一月一五日に本件主位的請求である勤勉手当請求の訴えを提起したことによつて中断された。すなわち主位的請求である勤勉手当請求権と予備的請求である国家賠償請求権は、形式的には訴訟物を異にするとはいえその実質は同一であり、本件においては原告らの所属庁の長である国土地理院長及び東北地方建設局管内の各工事事務所長の行つた昭和四四年一二月期の勤勉手当の成績率決定の権限行使が違法であるから、かかる違法な権限行使がなかつたならば各原告が得べかりし金員の支払を被告に求めるのが原告らの一貫した申立ての対象である。この請求権を直接的に勤勉手当請求権と構成するか、同額の期待権を侵害した不法行為に対する損害賠償請求権と構成するかは法令の解釈適用の問題であつて当事者の弁論により左右される問題ではない。両請求はその請求の基礎において同一性を有するから、主位的請求の訴提起によつて時効は中断したと解すべきである。

四  (被告)再反論

1  被告の消滅時効の主張は訴訟を著しく遅延するものでないし、また、準備手続において主張しなかつたことにつき重大な過失はなかつた。

2  時効中断の主張は争う。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  第一次請求に対する判断

請求原因1の原告らの身分関係に関する事実は当事者間に争いがない。

国家公務員の勤勉手当は、給与法一九条の四により六月一日及び一二月一日の基準日に在職する職員並びに基準日前一か月以内に退職しまたは死亡した職員に対し、基準日以前六か月以内の期間におけるその者の勤務成績に応じて、それぞれ基準日から起算して一五日をこえない範囲内において人事院規則で定める日に支給される給与であり(同条一項)、その額については当該職員がそれぞれの基準日現在(退職し、又は死亡した職員にあつては退職し、又は死亡した日現在。以下同じ。)において受けるべき俸給の月額及びこれに対する調整手当の月額の合計に、人事院の定める基準に従い各庁の長又はその委任を受けた者が定める割合を乗じて得た額とし、この場合において、各庁の長又はその委任を受けた者が支給する勤勉手当の額の総額は、それらの職員が基準日現在に受けるべき俸給及び扶養手当の月額並びにこれらに対する調整手当の月額の合計額に一〇〇分の六〇を乗じて得た額の総額をこえてはならない(同条二項)とされている。そして、右の人事院の定める基準として人事院規則九-四〇(期末手当及び勤勉手当)九条、一〇条、二二条により、基準日以前六か月以内におけるその者の在職期間による割合(期間率)及び勤務成績による割合(成績率)がかかげられ、各職員に支給される具体的な勤勉手当の額は基準日現在における俸給と調整手当の月額の合計額にこの期間率と成績率を乗じて得た額とされている。このうち成績率については規則一三条により「成績率は次の各号に掲げる基準日の区分に応ずる割合の範囲内で、各庁の長(その委任を受けた者を含む。)が定めるものとする。一 六月一日 百分の三十以上百分の七十五以下、二 十二月一日 百分の四十以上百分の九十以下」と定められている。

これらの法令の定めによれば、国家公務員の勤勉手当は当該職員の勤務成績に応じて支給される業績報償的性格を有し、その支給額は、当該職員についての期間率及び各庁の長(又はその委任を受けた者、以下同じ)が定める成績率を当該職員の俸給等の額に乗ずることによつて算出されるのである。従つて、少くとも各庁の長により成績率の決定がなされない限り、勤勉手当の額は確定されず、それに相応する勤勉手当請求権は未だ発生するに由ないものといわなければならない。

このことは、勤勉手当額の決定が各庁の長の裁量に委ねられていることを意味するのである。もとより、原告らが主張するように成績率の決定が恣意的になされてならないことは当然であるが、さりとて、そのことが直ちに成績率決定についての各庁の長の裁量を否定し、勤勉手当請求権の存在を根拠づけることにつながるものではない。すなわち、成績率の決定とその前提となる勤務成績の判定は、単純に機械的尺度をもつてなし得るものではなく、職員の日常の勤務態度、勤務実績、公務への貢献度を総合的に評価することによつてのみなし得るのであるから、これを職員を監督し日頃その動静を把握し得る地位にある各庁の長の裁量に委ねることは、それにより評価の正確性を期待することができ、かつ勤勉手当の業績報償的性格を意味あらしめる点において合理性を有するものということができるのである。

これを建設省についてみると、人事課長通達、改正通達により所属長が職員の日常の勤務成績を「A勤務成績が優秀であるもの」、「B勤務成績が良好であるもの」、「C勤務成績がよくないもの」の三段階にわけて評価判定し、昭和四四年一二月支給の勤勉手当につき判定Bの職員が判定と同時にその成績率が一〇〇分の六〇と決定されることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二号証の一、二(人事課長通達、改正通達)によれば、同月の勤勉手当につき、判定Aの職員は、判定と同時にその成績率は被告主張の率と決定され、判定Cの職員の成績率は、更に所属長が一〇〇分の五九以下一〇〇分の四〇以上の範囲で具体的に勤務成績を検討したうえで決定されることが認められる。そして、人事課長通達、改正通達のこれらの定めは、成績率決定が所属長の裁量に属することを前提にしたうえで、それが恣意的になされたり不公平に流れないよう勤務成績の判定を三段階に区分しそれに応じて決定されるべき成績率の範囲を限定したのであり、更に後に認定するように、人事課長通達は評定要領により評定要素及び評定の着眼点を示すことによつて同様の配慮をしているということができるのである。

以上述べたところによれば、原告らが主張するように規則一三条が成績率決定につき各庁の長に自由裁量を認めない趣旨とは解し得ないし、人事課長通達、改正通達が成績率決定の公正を期したものであることは事実であるとしても、勤勉手当の性格上、また、通達としての性質上これにより職員の勤勉手当請求権を具体化したものであるとか、これが内部規定以上のものを意味し裁判所をも拘束する法規的性格を有するものとまで認めることはできない。従つて、もとより、勤務成績につき「優秀」又は「不良」とする特段の事情が存しない限り、職員は当然「勤務成績良好なもの」として成績率一〇〇分の六〇とする勤勉手当請求権を有するものではないのである(なお、原告らは、昭和四四年一二月支給の勤勉手当につき、判定Cの職員の成績率に関し、訓告を受けた者一〇〇分の五七、書面注意を受けた者一〇〇分の五八、口頭注意を受けた者一〇〇分の五九とする基準を設定した旨主張するが、後にも述べるとおり、かかる事実は認められない。)。

このように、職員に対し成績率決定がなされない限り勤強手当請求権を認めないとしても、所属長による成績率決定が前記人事課長通達等に照らし裁量の範囲を逸脱していると認められる場合にあつては、当該職員は国家賠償法に基づく損害賠償を請求し、適正に成績率の決定を受けた場合の勤勉手当額と同額の賠償金を得ることができるのであるから、職員に不利益をもたらすことはないのである。

本件において、昭和四四年一二月支給の勤勉手当に関し、原告らの所属長である国土地理院長又は東北地方建設局管内の各工事事務所長が原告らの勤務成績をCと判定し、成績率を別紙一の1ないし3(別表の1ないし3、以下別紙一の番号による)の原告らにつき一〇〇分の五七、同4ないし12の原告らにつき一〇〇分の五八、その余の原告らにつき一〇〇分の五九と決定したにとどまることは当事者間に争いがないから、原告らにつき成績率を一〇〇分の六〇として算出された額の勤勉手当請求権は発生していないものといわなければならない。

よつて、原告らの第一次請求は理由なきに帰する。

二  第二次請求に対する判断

(一)  当事者間に争いのない事実と〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、被告主張の本件リボン闘争の前後の経緯に関する「一一・一三統一行動の状況」(事実摘示第二、二、(三)、2の事実)並びに本件リボン等の着用が違法であるから着用しないようにとの警告が、昭和四四年一一月七日付国土地理院長及び東北地方建設局長名の告示文の掲示や上司からの口頭注意によつて事前に各職員に伝達されたことを認めることができる。

(二)  原告らの本件リボン闘争におけるリボン着用等に関する別紙一記載の事実のうち、原告岡部、佐藤、板東が組合員に対しリボン等の着用を指導したこと、別紙一の13ないし23の原告らがリボン等を取りはずしたのが上司の命令によるものであることを除くその余の事実、本件リボン闘争参加を理由に、別紙一の1ないし3の原告らが訓告、同4ないし12の原告らが文書による厳重注意、その余の原告らが口頭による厳重注意を受けた事実は当事者間に争いがない。

この事実と〈証拠省略〉に弁論の全趣旨を総合すれば、本件リボン闘争に関し次の事実を認めることができ、証人保坂次男の証言中この認定に反する部分は採用し得ない。

1  前記(一)のように一一・一三統一行動日に早朝一〇分間の時間内食い込み職場大会の実施を決定した全建労は昭和四四年一〇月二三日各地方本部委員長、支部長に宛て指示一一号により一一・一三統一行動日の指令を発するにあたり、その中で当日の具体的行動のひとつとして、「リボン、プレート戦術は一一月一二日昼休み職場大会をひらいて翌日の斗いの意志固めをおこなつてから着用し、一三日の早朝大会で確認してはずすこと」を指示したが、リボン闘争の実施方法の細目は現地の実情に委ねた。

2  別紙一の1ないし13の原告らが所属する全建労東京地方本部地理支部では、右指示一一号を受けた後拡大中央執行委員会を開いた結果、一一月一二日の昼休み職場大会で国土地理院の筑波学園都市移転等に関する地理支部の独自要求をも含め一一月一三日統一行動における要求の最終的意思固めを行ない、右職場大会終了直後から一三日早朝時間内食込み職場大会終了まで一せいにリボン闘争を実施すること、リボン等には組合員各自が要求事項を記載すること、取りはずしの警告、職務命令に対しては当局が要求解決に対し誠意ある態度を示さない限りこれを拒否し、上司から注意を受けた場合にはその内容をメモし不当な言動に対しては抗議すること等を決定し、これを傘下組合員に伝達した。そして、地理支部では右決定に従い、一一月一二日昼休み職場大会において翌日予定されていた早朝時間内食込み職場大会実施を確認してその意思固めを行なつてから、右大会終了後直ちに別紙一の1ないし13記載のとおり原告らはリボン等を着用した。これに対し同記載の原告らの上司らはこれを違法行為であるとして取りはずしの警告を発した。しかし、原告らはいずれもこれを拒否したので、右上司らは取りはずしの職務命令を発したが、原告渡辺を除くその余の原告らはこれを拒否した。そして職務命令を拒否した原告らのうち板東を除くその余の原告らは一二日の勤務時間終了まで、原告板東は同日午後四時三〇分頃日課に従い作業衣を着替えるまでいずれもその着用を継続した。なお、本件リボン闘争当時国土地理院所属職員は約一、〇〇〇名でうち地理支部組合員は約二一〇名であり、本件リボン闘争に参加した者として当局が認めたのは地理支部組合員及び少数の非組合員を含め一一〇名であつた。

3  別紙一の14ないし23の原告らが所属する全建労東北地方本部では前記指示一一号を受けた後闘争委員会を開いた結果、一一月一二日昼休み職場大会を開き以後一三日の早朝時間内食込み職場大会終了までリボン等を着用すること、リボン等の記載内容は特に限定せず着用者にまかせること、できる限り取りはずしの警告、職務命令は拒否することを決定し、これを傘下組合員に伝達した。その後同本部はリボン等の着用終了時刻を一二日午後一時三〇分と変更した。そして、右原告らの所属する同本部傘下の支部、分会は右決定に従い、一一月一二日昼休み職場大会を開き、翌日予定されていた早朝時間内食込み職場大会実施を確認してその意思固めを行なつてから、大会終了後直ちに別紙一の14ないし23記載のとおり原告らはリボン等を着用した。これに対し同記載の原告らの上司らはこれを違法行為であるとして取りはずしの職務命令を発した。しかし原告門間、堀井を除くその余の右原告らはいずれもこれに直ちには従わず、原告小笠原、三浦を除くその余の原告らは同日午後一時三〇分又はその経過後まで右二名の原告らはその経過前である別紙一の18、21記載の時刻まで着用を継続した。なお、東北地方建設局所属職員は約四〇〇〇名前後で、うち東北地方本部組合員は一、二〇〇名から一、三〇〇名であり、本件リボン闘争に参加した者として当局が認めたのは組合員中一九五名であつた。

4  建設省と全建労の間では全建労提出の独自要求について交渉が行なわれていたが、全建労は右交渉に進展のきざしがみえたとして、前記(一)認定のとおり、一一月一二日午後五時過ぎ一三日の統一行動にあたつては時間内食込み職場大会、リボン等の着用を行なわない旨を言明し、この旨を傘下の地方本部、支部へ伝達した。

(三)1  〈証拠省略〉によれば、建設省における成績率決定に関し次の事実が認められる。

成績率の決定が所属長の裁量によるものであることは既に述べたが、建設省では成績率決定の基礎となる職員の勤務成績について人事課長通達によりその評定一要領を作成し、これに準処して勤務成績を評価判定し、既に述べたようにこれを優秀であるもの(A)、良好であるもの(B)、よくないもの(C)の三区分に判定することとしている。右評定要領によれば、判定要素として1仕事のできばえ、2勤勉さ、3規律をあげ、各要素について判定の着眼点を示しているが、規律に関しては、「守るべき規則や上司の命令などに従つたか、みだりに職場を離れたり私語したりすることはないか」という規律保持に対する態度が着眼点とされている。そして、各要素につきa(優秀)、b(良好)、c(よくない)の三段階の評定をし、右要素のほか、評定を受ける職員の職務と責任とに関連する評定要素を適宜追加することを認め、加えて評定の公正を期するため判定者は判定を受ける職員の所属課(室)の長の意見を徴するものとされている。かくて勤務成績の評価判定を受けた職員の一二月支給の勤勉手当の成績率は、既に述べたように判定Aの職員は「各期における勤勉手当の予算総額」から「A以外の職員の支給額の合計額」を控除した額を「Aの職員の本俸」と「調整手当」又は「暫定手当」の和で除した数値、判定Bの職員は一〇〇分の六〇、判定Cは一〇〇分の五九以下一〇〇分の四〇以上と定められている。成績区分の判定及び成績率の決定はこれら評定要素についてのいわゆる総合的判断であつて、例えば、たまたま当該職員が注意処分を受けたからといつて当然にC判定を受けたり、また、注意処分の程度によつて成績率が定められたりするものではなく、逆に注意処分を受けていないからといつてB判定以上を受け得るとものとも限らない。昭和四四年一二月支給の勤勉手当についてもこれと同様の方法により勤務成績の判定及び成績率の決定が行なわれたもので、原告ら主張のように、訓告、文書注意、口頭注意の程度に応じて成績率決定の基準が作られていたものではない。

2  ところで、被告は、原告らの勤務成績の判定及び成績率の決定にあたり、別紙二記載の原告らについては、本件リボン闘争参加以外に同記載の行為をも考慮した旨主張している。しかし、原告らはいずれも勤務成績Cと判定され、成績率一〇〇分の五七と決定された別紙一の1ないし3記載の原告ら、成績率一〇〇分の五八と決定された同4ないし12の原告ら、成績率一〇〇分の五九と決定されたその余の原告らとグループ別に本件リボン闘争参加の態様を眺めると、後に検討するように、その情状において同一グループ内では殆ど軽重の差がつけがたい。そうであれば、総合的判断とはいつても原告らに対する成績率決定にあたつては、本件リボン闘争参加が規律評価の主眼とされたものと認めるのが相当である。

(四)  そこで原告らの本件リボン闘争につき、勤勉手当の成績率決定の際考慮されたと認められる規律面から評価検討を加える。

1  労働組合の指示により行なわれる組合員による就業時間内のリボン等の着用は、組合員が要求事項を記載したリボン等を着用することにより、労務提供中にあつても、相互に労働組合員としての連帯意識を確認し合つてこれを昂揚させ、使用者に対し団結を誇示して要求行為を継続し、その貫徹を目指す組合活動であり、前記(二)の認定によれば、本件リボン闘争もその例にもれないものということができる。

加えて前記(二)の認定によれば、本件リボン闘争は翌日の早朝一〇分間時間内食込み職場大会実施へ向けて組合員の意識を鼓舞する目的のもとに計画され実行されたものということができる。しかして、時間内食込み職場大会は国家公務員法九八条二項により禁ぜられた争議行為であるから、本件リボン闘争は違法な争議行為実施へ向けられた行為としての一面をも有するものと評価せざるを得ないのである。

2  国家公務員は国家公務員法一〇一条により、法律又は命令の定める場合を除いてはその勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責逐行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならないとの、いわゆる職務専念義務を課せられている。即ち、職務に対し精神的及び肉体的に全力を集中しなければならない義務がある。そしてこの義務に違反したと認めるためには、そのために現実に職務の逐行が阻害される等の実害の発生を要件とするものではない。

ところで、原告らのした本件リボン等着用行為は、有形的行為としては職務時間前において瞬時に終了しているから、その後においてこれを着用したまま精神的、肉体的に全力を職務に集中させることがすべての場合において全く不可能であるとまでは断定し得ないであろう。しかしながら、前記(二)において認定したとおり、原告らの所属する地理支部及び東北地方本部は全建労本部の指示に従い本件リボン闘争の実施を決定し、傘下組合員に周知された方針どおりリボン等着用の直前である一一月一二日昼休み職場大会において翌日予定されている違法な時間内食込み職場大会実施への意思固めをした後上司の取りはずしの職務命令を拒否する意図のもとにその実施へ向けてリボン闘争を決定し、原告らはこれに従い、前示のとおり予め当局からそのような行為をしないようにとの警告が伝達されているのにかかわらず、自らが要求事項を記載したリボン等の着用に及んだのであり、リボン等着用に至るまでのこのような経過と前記1に述べた本件リボン闘争の性格に鑑みれば、その着用状態が継続している間は、着用者としては常に組合活動を意識しつつ労務提供をすることとなるのであるから、着用行為の継続は職務に対する注意力の集中度を減殺する蓋然性を高からしめるものといわざるをえないのである。従つて、本件リボン闘争が職務逐行と完全に両立し、これに全く影響を及ぼすおそれのない行為であつたとはいい得ないものといわなければならない。

しかして、本件リボン等の着用は、国家公務員としての労務提供に直接かかわりのない行為であり、またそれが組合活動である以上本来勤務時間外に行うべき性質のものであることはいうまでもないし、原告らがリボン等に掲げた要求事項自体は不当なものでないにしても、本件当時において、勤務時間中に組合活動としてかかる要求行為をリボン闘争という形で実施しなければならない緊急性、必要性を認めるに足る証拠はない。原告らは、国家公務員法が争議行為を禁止しているのは違憲であり、違憲な法律により争議権の行使が抑制されかつ人事院勧告制度もその代償機能を十分にはたしていない以上、経済的地位向上のため勤務時間中であつても本件リボン闘争のような集団的示威行為は必要であると主張するが、しかし非現業国家公務員についての争議行為禁止は違憲とはいえず(最判昭和四八年四月二五日)、また人事院勧告制度が代償機能を十分発揮していないかどうかは軽々に判断し得ないところであり、仮にその点において不十分なところがあつたとしても、前記要求事項の実現について勤務時間内の集団的示威行為にまで出なければならない程の緊急性、必要性は見出し得ないのである。

3  更に本件リボン闘争を職務専念義務とは別個の観点から眺めると、前記(一)認定のように、全建労が建設省職員組合所属職員を含め全建労への未加入者をも組織できる戦術として一一月一二日の本件リボン闘争及び一三日の一〇分間時間内食込み職場大会を計画したのに、前記(二)に認定したごとく、本件リボン闘争参加者として当局が認めた員数は比較的少なく、なお当局が現認しなかつた参加者もある程度あつたろうことを考えても、全建労未加入者はもとより同労組員の中ですら本件リボン闘争不参加者が少なくなかつたものと推認されるのであり、このことは、全建労のかかる闘争方針が国土地理院及び東北地方建設局所属職員の多くの同調、共感を得るに至らなかつたものと認めるほかない。このように勤務時間内におけるリボン等の着用につき意見を異にする職員が混在する職場においてリボン闘争が行なわれれば、これに同調し或は共感を持ち得ない職員の中には不快感、反発感をいだく者が出て、その結果職務逐行の場である職場全体に違和感が生ずるのは否定し得ないところである。そして、職場にかかる雰囲気を生ぜしめる行為は、秩序を乱し職員全体の職務逐行に影響を及ぼすおそれのある行為といわざるを得ないのである。

また、一般国民の中にも前記のような職員のリボン等の着用に好感を示さず、かかる行為を見聞することによつて国家公務員が単にリボン闘争にとどまらず往々勤務時間中に勤務外の行為を行なつているのではないかとの疑念をいだくにいたる者も少なからずあることも前同様否定し得ないところであり、従つて、本件リボン等の着用は全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき国家公務員の国民に対する信用にも影響を及ぼし、これを失墜させるおそれのある行為といわざるを得ないのである。

なお、〈証拠省略〉中に、「本件リボン闘争は職場に違和感その他異常な雰囲気を生ぜしめるような性質のものではない」という趣旨の部分があるが、それはあくまで本件リボン闘争参加者としての立場からの認識であつて、以上の判断をくつがえすに足るものではない。

4  以上のように、本件リボン闘争が職務専念を欠く結果を招く蓋然性の高い行為であり、職場全体においては違和感を生ぜしめ、国民に対しては国家公務員の信用を失墜するおそれを生み出すと認められる以上上司がその取りはずしの警告及び職務命令を発することは適法であり、その警告に従わないことは規律保持上責められてもやむを得ないものというべきであるし、職務命令を拒否することは国家公務員法九八条一項に違反するのである。そして勤務時間中における上司の警告、職務命令とその拒否という平常時にあつてはおこり得ない事態の発生により職場全体の雰囲気を異常ならしめ職務逐行に影響を及ぼすおそれを生ぜしめたということができる。

5  以上1ないし4に述べた本件リボン闘争の性格、職務専念、職場違和感、信用失墜、警告又は職務命令拒否に関する諸点と前記(一)に述べた国土地理院長、東北地方建設局長等によりリボン等の着用禁止に関する事前警告がなされた事実からみれば、本件リボン闘争に参加した原告らは全体の奉仕者たる国家公務員として規律保持に欠けるところがあつたものといわざるを得ない(もつとも、警告又は職務命令拒否がすべての原告についてみられるわけではないが、本件においてはそのことが右判断を左右することにはならない。)。従つて、原告らの所属長が原告らの勤務成績を判定するにあたり、前記評定要領による判定要素の規律面においてマイナスの評価をしたことは、その着眼点の趣旨に照らし相当というべきであり、所属長がこの評価を総合判断の一資料として原告ら全員に対しC判定をしたことをもつて、勤務成績判定権者としての裁量の範囲を逸脱しているものと認めることはできない。

もつとも、本件リボン闘争が与えた執務及び職場秩序への現実の影響、国家公務員としての信用失墜の具体性を知る資料はないが、このことは、マイナス評価の度合(いわば情状)に関することであつて、マイナス評価自体を否定し得るものではない。そして、本件で問われているのは、懲戒処分等の不利益処分の適否ではなく(前記のように原告らは訓告、書面注意、口頭注意を受けたにとどまる)、所属長が勤勉手当の成績率決定の前提となる勤務成績の判定にあたり、本件リボン闘争参加を規律面からマイナス評価し、原告らに対しC判定をなしたことの当否であつて、事柄の性質上その裁量において考慮し得る事情は前者に比して幅広く認められるといつてよい。〈証拠省略〉によれば、昭和四四年一二月支給の勤勉手当につき、いずれも原告らを含め、地理支部における本件リボン闘争参加者一一〇名全員が勤務成績Cの判定を受け、東北地方本部における同参加者二〇二名(一一月一三日の参加者を含む)中二〇〇名が同判定を受けたことが認められるのであるが、特殊の事情があつたと推認される東北地方本部の二名を除き原告らを含め同本部及び地理支部における本件リボン闘争参加者全員が、かかる闘争に参加せず、かつ他に勤務成績を不良と評価すべき特段の事由がない職員との対比において勤務成績特に規律面の評価判定上ある程度異つた扱いを受けたとしても、勤務成績に応じて支給される勤勉手当の業績報償的性格からみて特に不当であるとは認めがたい。従つて、所属長らが原告らの勤務成績を他の職員との対比においてCと判定したことが裁量を誤つたものということはできない。

6  次に、判定C区分の成績率は一〇〇分の五九以下一〇〇分の四〇以上の範囲で所属長が定めるべきものとされているところ、その範囲内で原告らに対し本件成績率を決定したことの当否について考えるに、まず、判定Cの所定成績率の範囲内において、原告らの成績率はその上限に接着した一〇〇分の五九ないし一〇〇分の五七の範囲において決定されているのであり、成績良好者の成績率一〇〇分の六〇との差は僅か一〇〇分の一ないし一〇〇分の三に過ぎないのである。

しかして、成績率一〇〇分の五七と決定された別紙一の1ないし3の原告らにつき、岡部が地理支部委員長、佐藤が同副委員長、板東が同書記長であることは当事者間に争いがなく、証人荒川昌男の証言及び弁論の全趣旨によれば、右原告ら三名は地理支部役員として前記(二)認定の全建労本部指示による本件リボン闘争を同支部において積極的に推進すべき指導的役割を担いそれにそう行動をなしたことが認められ、また、証人戸成公伸の証言によれば、地理支部の本件リボン闘争参加者一一〇名のうち五七名は上司の警告に従い取りはずしたが、五三名はこれを無視したまま着用を継続したことが認められるところ、当事者間に争いない事実と前記(二)認定によれば右原告ら三名も警告、取りはずしの職務命令に従わず、原告岡部、佐藤は午後一時から勤務時間終了まで、原告板東は午後三時頃から午後四時四〇分頃まで着用を継続していたのである。

成績率一〇〇分の五八と決定された別紙一の4ないし12の原告らがすべて地理支部組合員であつて上司の警告、取りはずしの職務命令に従わず午後一時から勤務時間終了まで着用を継続したことは当事者間に争いのないところである。

成績率一〇〇分の五九と決定された別紙一の13ないし23の原告らについては争いのない事実及び前記(二)認定によれば、いずれも着用時間が短く、地理支部所属の原告渡辺が最長で一時間四〇分(午後三時から午後四時四〇分まで)で、しかも上司の職務命令に応じて取りはずしており、他の原告らは東北地本所属組合員で同地本が着用を午後一時三〇分までと決定していたため、門間が午後二時五分に取りはずしたのを除きいずれも午後一時三〇分までには取りはずしている。

以上の事実関係に基づき、各グループごとに、本件リボン闘争における原告らの役割、参加の態様等を対比すると、その間にそれぞれ情状において成績率決定に若干の差をつけても不自然とは思われない程度の開きがみられる。しかし、各グループ内で各人の行為を対比すると、すべて情状が同一でないとしても成績率決定に差をつけなければならない程度の開きは認めがたい。

7  以上の事情を総合すれば、原告らの本件リボン闘争参加を規律評価の主眼とした結果、国土地理院長が別紙一の1ないし3の原告につき一〇〇分の五七、同4ないし12の原告につき一〇〇分の五八、同13の原告につき一〇〇分の五九とその成績率を決定し、また、東北地方建設局管内の工事事務所長が別紙一の14ないし23の原告につき一〇〇分の五九とその成績率の決定をし、もつて成績良好な職員との間に勤勉手当の支給額において本訴請求額程度の差をつけたことは合理的理由を首肯し得るものというべきであり、裁量権の逸脱を認めることはできない。

原告らは、建設省が全建労に対し正当な組合活動を抑圧しこれに干渉を加え、所属組合員に不利益取扱いをくり返しており、本件における成績率決定もこのような全建労敵視政策のあらわれであると主張し、種々立証を試みるが、既に述べたように、本件リボン闘争に対する原告らの所属長による成績率決定につき裁量権逸脱が認められない以上原告らの主張するような事実はその存否いかんにかかわらず右成績率決定を違法ならしめるものではない。

(五)  以上述べたところによれば、国土地理院長及び東北地方建設局管内の各工事事務所長による原告らの勤勉手当支給にあたつての成績率決定に違法はないから、原告らの第二次請求も理由なきに帰する。

三  よつて、原告らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松野嘉貞 濱崎恭生 仙波英躬)

別紙一

1 岡部文武

同人は、当時国土地理院地図部地理課に所属する職員であつたが、全建労東京地方本部地理支部委員長として、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中にリボンを着用することを指導するとともに自らも「労働組合にはいりなさい」と記載したリボンを着用し、まず午後一時八分に所属係長より、午後二時四〇分に所属補佐より、午後四時一〇分に所属課長よりそれぞれ警告を発したにもかかわらず、取りはずさないため、所属課長より午後四時三五分職務命令として取りはずしを命じたが従わなかつた。

2 佐藤公昭

同人は、当時国土地理院地殻活動調査室に所属する職員であつたが全建労東京地方本部地理支部副委員長として、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中にリボンを着用することを指導するとともに、自らも「人事院勧告完全実施」と記載したリボンを着用し、まず午後一時一五分に所属係長より、午後二時に所属補佐より、午後三時に所属室長よりそれぞれ警告を発したにもかかわらず、取りはずさないため、所属室長より午後四時三〇分職務命令として取りはずしを命じたが従わなかつた。

3 板東与実

同人は当時、国土地理院印刷部製版課に所属する職員であつたが、全建労東京地方本部地理支部書記長として、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中にリボンを着用することを指導するとともに、自らも「筑波移転の公開を」と記載したリボンを着用し(午前一〇時三〇分から午後三時頃まで野球レクのため不在)、午後四時一〇分所属課長より警告を発したにもかかわらず取りはずさないため、所属課長より午後四時三〇分、職務命令として取りはずしを命じた。これに対して同人はリボンを付けた上着をロツカーにしまつた。

4 柏村武

同人は、当時国土地理院測図部検査課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中「かあちやんもらえる賃金を」と記載したリボンを着用し、まず午後一時一〇分に所属係長より、午後二時一〇分に所属補佐より、午後三時二〇分に所属課長よりそれぞれ警告を発したにもかかわらず、取りはずさないため、所属課長より午後四時三五分職務命令として取りはずしを命じたが従わなかつた。

5 河西恵介

同人は、当時国土地理院測図部管理課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中「明るい管理課をつくろう」と記載したリボンを着用し、まず午後一時一〇分に所属係長より、午後二時一〇分に所属課長補佐より、午後三時三〇分に所属課長よりそれぞれ警告を発したにもかかわらず、取りはずさないため、所属課長より午後四時三五分職務命令として取りはずしを命じたが、従わなかつた。

6 前島孝夫

同人は、当時国土地理院地図部企画課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中、「不当配転反対、人勧完全実施」と記載したリボンを着用し、まず午後一時三〇分に所属係長より、午後二時三四分に所属補佐より、午後三時五八分に所属課長よりそれぞれ警告を発したが取りはずさないため、所属課長より午後四時三三分職務命令として取りはずしを命じたが従わなかつた。

7 橋本圭三郎

同人は、当時国土地理院地図部地理課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中「筑波移転計画を公開せよ」と記載したリボンを着用し、まず午後一時八分に所属係長より、午後二時四〇分に所属補佐より、午後四時一〇分に所属課長よりそれぞれ警告を発したにもかかわらず取りはずさないため所属課長より午後四時三〇分に職務命令として取りはずしを命じたが、従わなかつた。

8 市川清次

同人は、当時国土地理院地図部資料課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中にリボンを着用し、まず午後二時二〇分に所属係長より、午後二時五〇分に所属補佐より、午後四時五分に所属課長より警告を発したにもかかわらず取りはずさなかつたため、所属課長より午後四時三〇分職務命令として取りはずしを命じたが従わなかつた。

9 吉川正幸

同人は、当時国土地理院地図部製図課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中「人勧完全実施」と記載したリボンを着用し、まず午後一時一五分に所属係長、午後三時一〇分に所属補佐より、午後四時五分に所属課長よりそれぞれ警告を発したにもかかわらず取りはずさなかつたため、所属課長より午後四時三〇分職務命令として取りはずしを命じたが従わなかつた。

10 羽田野誠一

同人は、当時国土地理院地図部地理課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中にリボンを着用し、まず午後一時八分に所属係長より、午後二時四〇分に所属補佐より、午後四時に所属課長よりそれぞれ警告を発したにもかかわらず取りはずさなかつたため、所属課長より午後四時三五分職務命令として取りはずしを命じたが従わなかつた。

11 三橋邦夫

同人は、当時国土地理院測地部測地第一課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中「行(二)表を徹廃せよ」と記載したリボンを着用し、まず午後一時五分に所属係長より、午後二時に所属補佐より、午後三時に所属課長よりそれぞれ警告を発したにもかかわらず取りはずさなかつたため、所属課長より午後四時三〇分職務命令として取りはずしを命じたが従わなかつた。

12 藤井陽一郎

同人は、当時国土地理院測地部計画課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中「大幅賃上げ」と記載したリボンを着用し、午後二時所属補佐より警告を発したにもかかわらず取りはずさなかつたため、所属課長より午後四時三〇分職務命令として取りはずしを命じたが従わなかつた。

13 渡辺照男

同人は当時国土地理院印刷部印刷課に所属する職員であつたが、続一行動戦術の一環として一一月一二日の勤務時間中に(午前九時から午後三時頃まで野球レクで不在)「筑波移転反対」と記載したリボンを着用し、午後四時一〇分に所属課長より警告を発したにもかかわらず取りはずさなかつたため、所属課長より午後四時四〇分職務命令として取りはずしを命じたところ取りはずした。

14 石垣平次

同人は、当時東北地建青森工事事務所用地課所属職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中に「人事院勧告完全実施せよ」と記載したリボンを着用し、午後一時五分と一五分の二度にわたり所属課長より職務命令として取りはずしを口頭で命じたにもかかわらず取りはずさないため、午後一時三〇分所属課長より職務命令として取りはずしを文書で命じたところ、取りはずした。

15 今立武

同人は、当時東北地建秋田工事事務所機械課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中「要求貫徹」と記載したプレートを着用し、午後一時一八分所属課長より職務命令として取りはずしを命じたところ、午後一時三〇分とりはずした。

16 門間雄二郎

同人は、当時東北地建能代工事事務所庶務課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中に、「人事院勧告完全実施」と記載したリボンを着用し、午後二時所属課長より職務命令として取りはずしを命じたところ、午後二時五分取りはずした。

17 平川卓也

同人は、当時東北地建湯沢工事事務所工務課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中「人勧五月実施」と記載したリボンを着用し、午後一時五分及び二七分の二回にわたり所属課長より職務命令として取りはずしを命じたところ、午後一時三〇分とりはずした。

18 小笠原哲

同人は、当時東北地建岩手工事事務所北上国道出張所に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中「人勧を五月より実施せよ」と記載したリボンを着用し、午後一時八分ないし一三分所属監督官より職務命令として取りはずしを命じたところ、午後一時一三分取りはずした。

19 嵯峨勝巳

同人は、当時東北地建山形工事事務所調査課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として、勤務時間中「要求貫徹」と記載したリボンを着用し、午後一時五分洪水予報係長より、午後一時二〇分調査係長より午後一時二九分同じく調査係長よりそれぞれ職務命令として取りはずしを命じたところ、午後一時三〇分取りはずした。

20 郷古格治

同人は、当時東北地建釜房ダム工事事務所庶務課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中「要求貫徹」と記載したリボンを着用し、所属課長より職務命令として取りはずしを命じたところ、午後一時三〇分取りはずした。

21 三浦昭雄

同人は、当時東北地建三陸国道工事事務所工務課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中「人事院勧告完全実施」と記載したリボンを着用し、午後一時及び五分の二度にわたり所属係長より職務命令として取りはずしを命じたところ、午後一時一六分取りはずした。

22 松田正孝

同人は、当時東北地建釜房ダム工事事務所工務課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中「要求貫徹」と記載したリボンを着用し、所属課長より職務命令として取りはずしを命じたところ、午後一時三〇分取りはずした。

23 堀井繁

同人は、当時東北地建秋田工事事務所工務課に所属する職員であつたが、一一月一二日午後一時から統一行動戦術の一環として勤務時間中「要求貫徹」と記載したプレートを着用して、午後一時二九分所属課長より職務命令として取りはずしを命じたところ、午後一時三〇分取りはずした。

別紙二

1 岡部文武、前島孝夫、橋本圭三郎、市川清次

昭和四四年四月二二日退庁時、全建労東京地方本部地理支部組合員二〇数名は国土地理院裏門内で無届署名活動を行つたが、当局としてもこれらの行為が建設省庁舎における庁内取締りに関する訓令五条一項(庁舎等の公務外使用禁止とその許可に関する規定)に違反する行為であるため、解散命令、退去命令を発したところ、これを妨害し、またはこれらの命令に従わなかつたものがおり、これらの者について同年六月一三日文書、口頭による注意を行つた。これに対し、同日昼休み午後〇時一五分から一時まで原告橋本、同前島、同市川外八名は地図部製図課室において無届庁内集会を行つた。原告岡部は、同日午後四時三〇分勤務時間中に離席して部課長会議中の地図部長室に無断で入室し、処分説明書の交付を求める文書を部長に手渡そうとし、その受領を断つた部課長に対して執拗に受領を迫り、会議を妨害した。

2 岡部文武、佐藤公昭、板東与実、市川清次

(1) 昭和四四年一〇月一七日早朝、国土地理院組合掲示板(建設省庁舎における庁内取締りに関する訓令七条三項に基づき庁内取締責任者が、掲示許可条件を付して包括的に許可したもの)に総評のステツカー(一五センチメートル×四〇センチメートル)が貼付された。そのステツカーには「すべての職場と地域に大衆行動とストライキを組織しよう。総評」と印刷され、「地理支部、目黒地区労」という文字がマジツクインキで記入されていた。これは、掲示板の包括許可条件(チ)「その他庁舎管理上著しく不適当であると認められるもの」に違反するものであり、かつ、国家公務員法九八条二項に違反するおそれがあり違法なものであるので、直ちに取りはずすよう、午前九時すぎ地理支部副委員長安田聡に対し警告を行つた。これに対し組合は昼休み執行委員会を開き協議した模様であり、午後〇時五〇分頃ステツカーの取りはずしを行つた。この行為の組合の機関責任者は、原告らのうち、岡部文武、佐藤公昭、板東与実、市川清次の四名である。

(2) 昭和四四年一〇月二八日早朝、国土地理院の組合掲示板(包括許可済)に、一一月一三日公務員共闘の統一行動のストライキ宣言(総評、公務員共闘連名)の文書(約七六センチメートル×五一センチメートル)同文二枚が貼付された。当局は、午前九時一〇分総務課長補佐が地理支部岡部文武委員長を呼んだが、休暇のため副委員長安田聡を呼んでストライキ宣言文は掲示板の許可条件(チ)「その他庁舎管理上著しく不適当であると認められるもの」に反するもので違法であるので、午前九時三〇分までに撤去するよう伝えたが、安田副委員長は「本件については、私は関係なく書記長の担当であるから知らない。」と言つて帰つてしまつた。午前九時三〇分に至つても撤去しないので、総務課長補佐が副委員長二名(安田と佐藤公昭)を再度呼んで取りはずすよう注意したところ、両名は「昼休み執行委員会を開いて取りはずすかどうかを決める」と言つてきたが、午前一〇時までにはずすように伝えた。午前一〇時に至つても撤去していないので、当局において午前一〇時三分に撤去した。組合側は、昼休みに執行委員会を開いた模様であり、午後〇時五三分に組合側執行部八名(原告らのうち、岡部文武、佐藤公昭、板東与実、市川清次の四名を含む。)の者が、「スト宣言文をどうして取りはずしたのか聞きたい。」また「人勧の五月実施を院長に伝えてもらいたい。」と言つて抗議しているうちに午後一時になつたので退去した。午後〇時五五分頃組合員数名により前記の午前一〇時三分に撤去したスト宣言文と同文を再度掲示し、同時に一一・一三公務員共闘第九次統一行動実力行使で要求の実現を」という要求文(約七五センチメートル×七五センチメートル)に戦術として「早朝始業時から二九分以内の職場大会」というビラその他公務員共闘の「一一・一三統一ストライキで諸要求を勝ちとろう」というステツカーの他一〇数種に及ぶステツカーを掲示板一面に貼付した。当局は午後一時四〇分に岡部委員長を総務課に呼び注意しようとしたが出頭せず、午後二時一〇分来室したので再度厳重に注意し、午後二時三〇分までに取りはずしをするように伝えた。しかし、午後二時三〇分に至るも組合側は取りはずさないので、当局の手により午後二時四〇分撤去した。午後三時の休息時間に入つて、前記の組合側岡部委員長外七名は、「どこが悪いのか。」と抗議のため総務課長補佐につめよつたが、指摘を受けて撤去した文書、ステツカーを受けとり退去した。右ステツカー、ビラ等の内容は国家公務員法九八条二項に違反するおそれがあり、前記許可条件(チ)に違反する。以上の事実につき、右の原告らの特に規律の点で評価した。

3 河西恵介

昭和四四年六月五日午後〇時一五分から〇時五五分までの間において、原告河西外七名の国土地理院測図部管理課所属の全建労東京地本地理支部測図分会の組合員は、測図部地形課分室において、前記建設省庁舎における庁内取締りに関する訓令五条一項に規定する庁舎取締責任者の許可を得ず職場内集会を開き、当局としては集会桙ノは内容不明のためしばらく観察したが、自主的に解散の気配がないので、庁内取締責任者の補助者である管理課長及び地形課長と中止させることについて打合せを行つているうちに、〇時五五分に至つたので、直ちに集会の責任者と目される河西を管理課長補佐の席に呼び、「無届で職場内集会を開くことは困る。使用するなら所定の手続による許可を得ること」と伝えた。右の事実につき、河西の規律の点で評価した。

4 今立武、堀井繁

昭和四四年一〇月二八日午後一時一〇分、東北地建秋田工事事務所庶務課長は、今立武支部長に「一一・一三公務員共闘第九次統一行動、実力行使で要求の実現を」、「早朝始業時より二九分以内の職場大会」などと記載の国公共闘の壁新聞は、国家公務員法九八条二項に違反するおそれがあり、掲示板の前記許可条件(チ)に違反するものであり、違法なものであるので、午後二時までに撤去するよう警告したが、これに従わなかつた。そこで午後二時五五分再度支部長に撤去を命じたところ従わなかつたので、午後三時一〇分当局で撤去した。この許可条件に違反する掲示物撤去作業中、原告今立武及び堀井繁は他の五名とともに抗議を行つて業務遂行を妨げるとともに、上司に無断で離席し、職務を放棄した。

5 堀井繁

昭和四四年一〇月二五日、午前九時五〇分、秋田工事事務所庶務課長は手塚副支部長に「沖縄返還、安保廃棄、国会解散、総選挙に勝利を公務員共闘」、「一一・一三統一ストライキで諸要求を勝ちとろう公務員共闘」という内容のステツカーは、安保廃棄云々が国家公務員法一〇二条に、ストライキ云々が同法九八条二項に違反するおそれがあり、ステツカーは前記掲示許可条件(チ)に違反する違法なものであり、午前一〇時三〇分までに撤去するよう警告したがこれに従わなかつた。同一一時三〇分再度手塚に撤去を命じたが従わないので、午前一一時三二分当局で撤去した。撤去作業中、原告堀井は他の五名とともに抗議を行い業務遂行を妨げ、上司に無断で離席し職務を放棄した。

別表

一(原告氏名)

二(官職)

三(配属先)

四(号俸)

五(得べかりし

勤勉手当)

六(支給された

勤勉手当)

七(差額)

八(リボン斗争について

受けた損害)

1 岡部文武

建設技官

国土地理院地図部地理課

行(一)七の四

二二、〇三五

二〇、九三三

一、一〇二

訓告

2 佐藤公昭

同右

同地殻活動調査室

同七の三

二〇、九四三

一九、八九五

一、〇四八

同右

3 坂東与実

同右

同印刷部製版課

同八の六

一七、三九五

一六、五二六

八六九

同右

4 柏村武

同右

同測図部検査課

同七の二

一七、九一九

一七、三二二

五九七

文書による厳重注意

5 河西恵介

建設事務官

同測図部管理課

同七の二

一九、九一〇

一九、二四六

六六四

同右

6 前島孝夫

同右

同地図部企画課

同七の三

二〇、九四三

二〇、二四四

六九九

同右

7 橋本圭三郎

建設技官

同地図部地理課

同七の二

一七、九一九

一七、三二二

五九七

同右

8 市川清次

同右

同地図部資料課

同八の六

一七、三九五

一六、八一五

五八〇

同右

9 吉川正幸

同右

同地図部製図課

同八の四

一五、九八一

一五、四四八

五三三

同右

10羽田野誠一

同右

同地図部地理課

同六の九

三三、二八五

三二、一七六

一、一〇九

同右

11三橋邦夫

同右

同測地部測地第一課

行(二)三の八

二五、七八五

二四、九二六

八五九

同右

12藤井陽一郎

同右

同測地部計画課

行(一)五の七

三六、一二六

三四、九二一

一、二〇五

同右

13渡辺照男

同右

同印刷部印刷課

同六の九

三三、二八五

三二、七三〇

五五五

口頭による厳重注意

14石垣平次

建設事務官

東北地方建設局

青森工事事務所用地課

同七の九

二六、四九六

二六、〇五四

四四二

同右

15今立武

同右

同秋田工事事務所機械課

同六の九

三一、六五六

三一、一二八

五二八

同右

16門間雄二郎

同右

同能代工事事務所庶務課

同七の二

一八、九〇六

一八、五九〇

三一六

同右

17平川卓也

建設技官

同湯沢工事事務所工事課

同七の八

二五、三八六

二四、九六二

四二四

同右

18小笠原哲

同右

同岩手工事事務所

北上国道出張所

同七の八

二五、三八六

二四、九六二

四二四

同右

19嵯峨勝巳

同右

同山形工事事務所調査課

同七の一〇

二七、六三〇

二七、一六九

四六一

同右

20郷古格治

建設事務官

同釜房ダム工事事務所

庶務課

同六の八

三〇、二四〇

二九、七三六

五〇四

同右

21三浦昭雄

建設技官

同三陸国道工事事務所

工務課

同七の五

二二、〇三八

二一、六七〇

三六八

同右

22松田正孝

同右

同釜房ダム工事事務所

工務課

同七の一〇

二七、六三〇

二七、一六九

四六一

同右

23堀井繁

同右

同秋田工事事務所工務課

同七の一〇

二七、六三〇

二七、一六九

四六一

同右

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